焼却炉から考える放射性廃棄物処理問題の未来

放射性廃棄物の処理は最終処分場や中間貯蔵施設、管理型処分場の建設地問題で大きな進展が見られない。現実的な手法はないか検討しています。

シビアアクシデント対策の在り方 | 鹿児島県薩摩が川内市の原子力発電所の再稼働について

 

2015年8月11日(火)に九州電力が管轄する川内原子力発電所が再稼働した。

2013年9月15日(日)に国内で唯一稼働していた関西電力大飯原子力発電所の定期検査による停止で国内50基すべての原子力発電プラントが停止して以来、実に695日ぶりに原子力発電所が稼働したことになる。

 

 

当時国内すべての原子力発電所が停止した際の一般社団法人日本原子力産業協会の公表文を引用する。

 

 

福島第一原子力発電所の事故以来、厳しい場面はあったものの 3 度の夏を一度として大停電に至らずに過ごすことができたのは、老朽施設も含めた火力発電がフル稼働しているからに他ならない。しかし、運転する予定がなかった老朽施設の運転再開には、厳しい設備保全、運転監視等が求められ、さらに継続運転している現状は、まさに「綱渡り状態」だ。また、化石燃料消費量の増加に伴い、CO2 排出量も増加の一途をたどっている。最新鋭の施設に比較して、老朽施設の CO2排出量が多いのは事実である。

 

さらには、燃料費は事故前との比較で年間約 3.8 兆円増加し、国民一人当たりの負担で見ると約 3 万円にもなる。この規模は、3%の増税が話題となっている消費税と比較すると、約 1.4%(消費税 1%が約 2.7 兆円)に当たる。つまり、国内の原子力プラントが全て停止していることで、検討されている消費税増税額のおよそ半分に当たる国富が国外に流出していることになる。エネルギー問題も家庭生活や産業・経済活動等、広く国民に関わる問題なのである。

 

昨今の電力供給の構造は、こうした「設備面」「環境面」「コスト面」の危うさに直面している。これらの問題をクリアにし、「良質な電気」、すなわち「安全」で「安定」した電力を「低廉な価格」で供給することが必要だ。

 

現在、「長期的な視野でエネルギーをどのようにして確保するか」については政策的な議論がなされているが、その間にも必要となる「良質な電気」を供給するためにも、「CO2 を発生しない」「発電コストが安い」原子力発電が、その役割を担うべきではないか。

 

それにはまず「新規制基準」への適合確認作業を適切かつ着実に進め、安全性が確認された原子力プラントを再稼働することが重要だ。そのためにも、国、規制当局、事業者にはその経過の透明性を高めるとともに、結果についても説明責任を果たし、社会の理解を得るために、国民に正しく伝えていく取り組みを求めたい。

 

当協会も原子力産業界の一員として、原子力の必要性や安全性向上への取り組みについて、広く国民に伝わるよう努めるとともに、より実効的な規制、安全性向上に対する不断の努力を常に求め、「原子力発電の信頼回復」に尽力して参りたい。

 

 

( 引用:http://www.jaif.or.jp/ja/news/2013/president_column20_130917.pdf

 

簡単にまとめると、

 

原子力発電所の代わりに老朽化した火力発電所が頑張ってくれているので、「綱渡り状態」ではあるが、何とか乗り切ってきた。

 

 

しかし、

 

① 火力発電所に依存することでCO2の排出量は増加の一途をたどっている。

② 火力発電に必要な化石燃料を海外から輸入することで国民一人当たりの負担費用が年間3.8兆円増加し、国富の半分が海外に流出してしまう。

 

上記の現状から、「良質な電気」(=「安全」で「安定」した電力を廉価な価格で供給すること)ために原子力発電所を早く再稼働すべきである。

 

との見解だ。

 

 

そのためには、

 

① 安全性を高めること

② 社会の理解を得るために国民に正しく伝えていく取り組み

 

が必要であるし、「原子力発電の信頼回復」に尽力していく。

 

と結んでいる。

 

 

こうした主張は問題の本質からぶれることがあるため、1つずつ紐解いていこう。

 

 

 

まず、火力発電所の稼働が進むことによって我が国のCO2排出量は増加の一途をたどっているのであろうか。

 

国立研究開発法人国立環境研究所が2015年4月23日に公表している「日本の温室効果ガス排出量データ確報値」における「エネルギー起源」によるCO2排出量の2013年までのデータ推移をみると確かに2011年以降排出量は増加している。

http://www-gio.nies.go.jp/aboutghg/nir/nir-j.html

 

 

 

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しかし、2013年の排出量は2007年の排出量よりも低い数値であり、また、「GDPあたりエネルギー起源のCO2排出量」の割合は2013年に減少に転じている。

 

 

 

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GDPあたりの排出量割合と排出総量の推移を比べると、経済活動の活発化に伴いGDPは成長していくため、CO2は排出総量も増加していく。そのため、GDPが一定、もしくはマイナス成長を続けている状態において排出量が増加しているのであれば、その原因を火力発電所が原因と結びつけることができるかもしれない。しかし、少なくとも実質GDPが2011年以降増加している状況下において、火力発電所に依存することが原因で、「エネルギー起源」の排出量が増加しているとは断定できないのではないか。

 

次に、国民一人当たりの負担が消費税の増加3%と比べて約半分の1.4%が増加し、国富が海外に流出するといった言及について。

 

国富に関して消費税との増加分と照らし合わせた内容の話が出ているが、消費税はその性質上、国民に再分配されることが前提になっているため、単にその数値と比較をしても全く意味のないことである。

 

また、3.8兆円の国富が海外に流れてしまうといった点において、日本の貿易収支のうち2010年の輸入額は、54兆8,754億円である。仮に3.8兆円の増加する全体に占める割合は6~7%程度のため、燃料の輸入量増加に伴い大幅な国富の減少が生じるわけではない。

https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/balance_of_payments/bpnet.htm

 

これらの前段の内容は自身が身を置く業界を守る際によく使われる数値を用いた錯誤表現なので、わきに置くとする。

 

 

重要なことは、「良質な電力」において定義づけられている「安全」を高めること及び、それらの現状を広く国民に情報発信していくことである。

 

 

しかし、原子力規制委員会がこれまでに公表している「新規制基準」には、今回の東日本大震災等の大規模自然災害等を対象としたシビアアクシデント( 設計上想定していない事態が起こり、安全設計の評価上想定された手段では適切な炉心の冷却又は反応度の制御ができない状態になり、炉心溶融 又は原子炉格納容器破損に至る事象 )への対応策は基準として追加されているものの、その事態に陥ったのちの計画については規制対象とはなっていない。

http://www.nsr.go.jp/data/000070101.pdf

 

 

 

シビアアクシデントが発生した場合の対応策は準備しなければならないが、外部へ放射能が漏れたのちの事後処理についてはどのように実施するか準備する必要がないのである。

 

 

 

今回のように中間貯蔵施設や最終処分場をどこに設置し、また、放射性廃棄物の処理方法をどのように行うか、更には対象地域住民がどのように非難しその情報伝達をどのように行っていくのかといった点まで含めて事前に策定しておくことが、今後も原子力発電所を活用していくには必要なことではないか。

 

 

 

原子力発電を活用しないことによる経済損失を声高に主張するのであれば、万が一のシビアアクシデントに対する包括的なリスクマネジメントを実施することで広く国民に「安全」を訴求していく必要があると考える。