日立造船運営の鮫川村仮設焼却炉事故とは何だったのか
2013年8月29日(木)いつものように8時ごろ、傾斜式回転床炉の運転準備を開始した。
8時3分…排風機の運転を開始。
8時10分…バーナーに着火
9時ごろ…焼却対象物( 牧草60%、稲わら40% )を投入し、定格( 毎時190Kg )を目指して焼却を開始。
その後、14時過ぎまで約1tを焼却した。
14時33分ごろ…主灰コンベア付近で大きな異常音( パンという大きな破裂音 )が発生した。その後、直ちに着火バーナー、二次バーナーの燃料を停止。
14時36分ごろ…作業員が現場を確認中に二回目の異常音( 1回目よりは小さな音 )が発生。
14時37分ごろ…原料供給を停止。順次停止ボタンを押し、運転停止操作に移行。
14時45分…現場運転事務所( 日立造船 )から日立造船株式会社本社へ第一報を連絡。
14時50分…現場運転事務所から環境省に第一報を連絡。
14時50分…鮫川村から環境省及び、現場運転事務所に事実関係の問い合わせ。
15時10分~…環境省本省が、鮫川村、北茨城市、いわき市、塙町、福島県産業廃棄物課、福島県県南地方振興局、環境省福島再生事務所に第一報を連絡。
15時53分…排風機が停止し、プログラム通り、順次停止を完了。
16時30分~…現場運転事務所長が近隣の住宅4戸に電話し、つながった3個に対して事故の状況を説明。
19時ごろ…環境省本省で記者発表を行うとともに、鮫川村、いわき市、北茨城市、塙町、福島県産業廃棄物課、福島県県南地方振興局に記者発表資料を送信。
20時20分~…現場運転事務所長と環境省福島再生事務所員が近隣の住宅11戸を訪問し、事故の状況とお詫びを内容とする説明資料を配布。
20時30分…棚倉消防署から環境省本省に事実関係の問い合わせ。
20時43分…環境省本省から棚倉消防署に記者発表資料をファックスで送信。
21時…環境省本省から棚倉警察署に連絡。
21時23分…環境省本省から棚倉警察署に記者発表資料をファックスで送信。
※警察署、消防署には緊急対応連絡網に基づき、現場運転事務所から連絡する体制であったが、連絡がされなかったために環境省本省が対応した。
環境省が2014年9月10日に公表された環境省がまとめた資料によると、上記の時系列がうかがえる。
( http://shiteihaiki.env.go.jp/initiatives_fukushima/specified_waste/pdf/samegawa_130925_01_01.pdf )
上記の事故はのちに山本太郎参議院議員等の開示請求を通じて、説明の矛盾点が露見されることになるが。
さて、今回の事故の論点は3つあると考える。
① 事故を引き起こした原因は何なのか
② 危機管理体制及び、情報伝達経路はどのように設計されていたのか
③ 責任所在はどこにあるのか
まず、事故を引き起こした原因は何か。
環境省の報告によると、原因は
① 焼却炉の下部にあるプラグの隙間から可燃物を含む灰が主灰コンベアにこぼれ落ち、
② 主灰コンベア内や主灰サイロ内でくすぶって一酸化炭素を主体とする可燃性ガスが発生し、
③ 閉鎖空間であった主灰コンベア内や主灰サイロ内に滞留して可燃限界濃度に達し、
④ 焼却炉からこぼれ落ちた灰が火種となって着火し、一気に異常燃焼し、
⑤ 主灰コンベア内の圧力上昇を招き、破損・変形に至ったものと推定されます。
上記の設備構造上や運転管理体制にも問題があったとしながらも、一貫して
“人為的なミス”
を原因として主張している。
つまり鮫川村での事故は通常起こりえない、もしくは想定しえない人為的なミスが生じたために起きてしまった事故だと結論付けているに他ならない。
しかし、こうした人為的なミスは全く想定しえなかったのだろうか。
ポイントは、日立造船が提案し、環境省が認めた「傾斜回転床炉」にある。
この「傾斜回転床炉」は、愛知県春日井市に建設された産業廃棄物処理施設がよく引き合いに出される。
2004年に愛知県が設置を許可し、名城産業株式会社( 愛知県名古屋市 )が2007年から運転した同施設は、排ガスや異臭が基準値を超えたとして2度の改善命令を出すも、改善が行われず2010年8月に地域住民の念願叶い、操業が断念された。
これまでに全国で「傾斜回転床炉」の運用事例の実績はほとんどない。
では、そうした運用実績の少ない焼却炉形式を選択したプラントメーカーは運営体制上どのような危機管理体制及び、情報伝達経路を事前に準備していたのか。
運用実績が少ないということは、不測の事態が経験則として蓄積されていないことを意味する。
つまるところ、施設運営における熟練工がいないため、「不測の事態」や「万が一の際」のリスクマネジメントを想定することができないのである。
ましてや、放射性廃棄物の処理ともなると、万が一の際のリスクは更に高まることは容易に想定さる。
また、2011年11月8日には東京都国立市の株式会社リストの運営する産業廃棄物処理施設で大規模火災が発生したのも「傾斜回転床炉」の焼却炉である。
1995年に宮崎県延岡市の有限会社オイルリサイクルが運営する焼却施設と、2006年に愛知県喜多郡内子町の有限会社坂本材木店の焼却施設に設置された「傾斜回転床炉」は事故こそは起きていないものの、喜多郡の施設は既に廃止されている。
私が確認できた範囲で、鮫川村の仮設焼却施設建設以前には、国内で4例しか存在しなかった「傾斜回転床炉」をどのようにリスクマネジメントすることができたであろう。
さらに言えば、今回の運営を行った日立造船はこれまでに国内での運用実績は1例も存在しない。
また、環境省の取りまとめを確認しても「危機管理」といった観点から疑問が生じる。
何故、現場運転事務所は爆発が起こった際に、地元警察署及び消防署に通報を行わず、環境省に連絡を入れたのかである。
緊急対応連絡網に基づくと、現場運転事務所が連絡を行うフローになっているとのことだが、何らかしらの意図が働いたのではないかと勘繰りたくなる。
現場の日立造船の責任者及びスタッフは地元の鮫川村ではなく、「東京( = 環境省 )」に向いていたのではないだろうか。
事故発生後の環境省本省に第一報が入ってから約5時間40分後に地元の棚倉消防署への説明を準備するには十分な時間があった。
当日の16時30分から近隣の住宅に連絡を行ったとしているが、万が一の際を考えると、日立造船本社や環境省への報告より前に地元住民の安全を確保することが優先されるのではないか。
さて、こうして出揃った情報をもとに検討すると、鮫川村での事故は起こるべくして起こった事故であると結論付けることができるのではないか。
つまり、国内の運用実績がほとんどない「傾斜回転床炉」を用いた仮設焼却施設の運用は「安全運転」を保証するには程遠い経験によって裏打ちされたプラントメーカーによって運営されたために、「予期せぬ人為的なミス」が発生し、事故が起きた。ということである。
何故、これまで運用実績のない「傾斜回転床炉」を提案したかについては推測の域を出ないが、プラントメーカーの裏側で何かしらの思惑が生じていたに違いない。
もちろんのこと、この提案を認めた環境省も同様に責めに帰すべきである。
しかし、一番の責任は、運営を行った日立造船であることは疑いの余地がない。
では、この事態を受けて我々は今後の廃棄物処理を検討するにあたって、どの点を考慮すべきなのであろうか。
それは、
“安全運転が行えない焼却炉形式、プラントメーカーを選択しない。”
ことである。