“除去土壌”とは? 汚れた土の再利用よりも、汚れが落ちるまでに着目せよ
7月21日(火)環境省は“中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会”なる会を立ち上げた。
( http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150721/k10010161211000.html )
インターネット上では、
“こうやってじわっとじわっと日本全土をごみ処理場にしていくつもりなんだね。”
とした声もあがり、汚染土壌の再生利用に関する批判が多く見られたが、環境省が公表している資料の中で、気になるものがある。それは、“除去土壌”という表現だ。
環境省公表の“除去土壌の保管に係るガイドライン”( 2013年5月:http://www.env.go.jp/jishin/rmp/attach/josen-gl04_ver2.pdf )では、“福島第一原子力発電所の事故に伴い放出された放射性物質の除染作業によって除去された土壌”のことを「除去土壌」と定義している。
放射性廃棄物が付着しているこれらの土を減容化し、除染したのちに再利用することを検討し始めた。
利用先として白羽の矢が立ったのは、
① 工作物の埋戻し
② 土木構造物の裏込め、
③ 道路用盛土
④ 河川築堤
⑤ 宅地造成
⑥ 公園・緑地造成
⑦ 水面埋立
⑧ 建築物の埋戻し、
⑨ 鉄道盛土
⑩ 空港盛土
上記10の用途だ。
また、これらに活用するための正当性を担保するためのものとして、
・発生土利用基準…国土交通省通達( 平成18年8月10日 )
・建設発生土利用技術マニュアル…土木研究センター( 平成25年12月 )
これら2つの基準と照らし合わせて検討した。
確かに一見、上述の情報を搔い摘んだニュースを受け取ると、「福島県の原発事故によって放出された放射能に汚染された土を日本全国にばらまく気か!」と憤慨したくもなる。
しかし、今回の検討会の中で注目すべき点は別にある。
① 「除去土壌」という「単語」を用いて放射性廃棄物の枠から汚染された土を追い出していること。
② 「放射能濃度ごとの経時変化」の表をもとに計算すると8,000~100,000 bq / kgの放射性廃棄物のうち、6割が50,000bq / kgの廃棄物であること。
である。
まず今回は、「除去土壌」の処分方法に関して検討したい。
環境省の除去土壌の処理フロー( https://josen.env.go.jp/chukanchozou/action/acceptance_request/pdf/draft_131214.pdf )をもとに依然用いた図をもとに図解してみると下記の通りとなる。
つまり、結局のところ、仮置場というフロー以外は、通常の特定廃棄物( 放射性廃棄物 )と同様の対象物であると考えられる。
また、こうした言葉のあやを用いて、放射性廃棄物を管理型処分場、中間貯蔵施設や最終処分場ではなく、その他一般廃棄物と同様の処分場もしくは再利用を実施しようと検討しているのは、ひとえに処分場の不足が懸念されているからに他ならない。
やはり、処分施設の確保はこの先も困難であるとの見通しが変わらないと容易に推察される。
確かに、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」( http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S45/S45HO137.html )第二条において、“この法律において「廃棄物」とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。)をいう。”とし、汚泥のように水分が多く含まれていない、土は廃棄物の定義の中からは外れてしまうのかもしれない。
また、一般的に廃棄物と聞くと不要になった家具や家電製品等を連想するのではないだろうか。
しかし、法律上の「廃棄物」の定義に必ずしも当てはまるものではないことを理由にして、
土 ≠ 廃棄物
の構図をとっても根本的な課題解決に至らないといえるのではないか。
では、どうしたらよいのか。
除去土壌も指定廃棄物( 放射性廃棄物 )の一部としてとらえることで、適切な処分フロー及び、減容化の手法を検討し、放射性濃度が科学的に人体に影響がない程度まで引き下げることができることを立証し、かつ、それらを丁寧に説明することを継続することによって、再利用時の安心・安全の訴求を目指すべきである。
というのも、「除去土壌」と一見わかりにくい表現を用いることで、放射性廃棄物を日本全土に巻き散らかすのではないかと国民は不信感を抱き、円滑な指定廃棄物処理の進行を阻害する要因になりかねないからである。
また、今回の検討会の中にも、こうした「除去土壌」の減容化技術に関して、
① 分級処理
放射性セシウムが付着している土壌の成分を、超音波やジェット水流、スクラビングフローテーション、ナノバブル( マイクロバブル )等の手法によって分離する処理方法。
② 化学処理
放射性セシウムが付着している土壌を酸溶液( シュウ酸、硫酸、塩酸、硝酸、フッ化水素酸 等 )あるいは、アルカリ溶液( 水酸化ナトリウム 等 )を用いて溶媒する手法、もしくは、フェロシアン化鉄( プルシアンブルー )、ゼオライト、ケイチタン酸塩の吸着剤を用いて分離する処理手法。
③ 熱処理
放射性セシウムが付着している土壌を、融点以上まで加熱しセシウムを揮発させさせる溶融と、融点より低い温度で加熱しセシウムを揮発させる焼成、あるいは、反応促進剤( 塩化カルシウム、炭化カルシウム、二酸化ケイ素 等 )を用いて揮発分離させる処理手法。
3つの処理技術による検証が公表された。
また、これらの手法を比較すると、
実証結果に基づくと、
① 除染率が一番高いのは「熱処理」…最大99.8%の除染が可能( 最低でも94% )
② 処理コストが一番安いのは「分級処理」…平均1tあたり1.2万円で処理が可能( 最大でも3万円 / 1t )
それぞれの処理方法において、上記の優位性がうかがえる。
また、暫定的ではあるが、減容化技術によって除去土壌から放射性セシウムが高い割合で除染可能といえる結果が公表された。
将来にわたり上記処理手法よりも有効な手法が突如として現れる可能性もある。
しかし、放射性物質の除去においては、採算度外視とまではいかないが、ある程度のコストが生じることは致し方のないこととした場合、優位性の②を排除し、実証結果から検討すると、この除去土壌の処理において、「熱処理」による減容化手法が現状では最善の策と結論付けられるのではないだろうか。
また、「熱処理」にコスト優位性がないのであれば、規模の経済性を生かし、1tあたりの処理コストを低減することで国民の負担を低減し、さらには、除染率が高いために安心を提供することができるのではないかと考える。
さらに、この「除去土壌」再利用に関する課題は、上記に問題点として指摘した通り、「除去土壌」と銘打って土を放射性廃棄物以外の物として扱うのではなく、福島第一原子力発電所の事故によって生じた放射性廃棄物の一部として、正面からその処理の在り方について検討する姿勢が必要なのではないか。
※次回は問題点②の「「放射能濃度ごとの経時変化」の表をもとに計算すると8,000~100,000 bq / kgの放射性廃棄物のうち、6割が50,000bq / kgの廃棄物であること。」について検討したい。